経営に一番大事なのは、なんでしょうか?
プロダクト?マーケティング?
いずれも重要です。
しかし、組織が大きくなればなるほど会計と管理体制が重要になってきます。
守りの部分がおそろかですと必ずしっぺ返しがきます。
では、具体的にどのような管理体制にすべきか。
その答えを経営の神様である稲盛和夫氏が「経営の実学」にて記されていますのでまとめました。
稲盛和夫とは?
京セラ、KDDIの創業者です。京セラとKDDIを知らない方はいないと思いますが、売上高は下記の通り共に1兆円を超える超大企業です。
- 京セラ 1兆5千億円
- KDDI 5兆2千億円
その2社だけでもすごいのですが、JALが経営破綻した時に国からの要請に基づき会長に就任しています。
赤字続きのJALの経営体質を改善し、着任した翌期に黒字転換、3期目で再上場させています。
しかも、JALの会長は無報酬で引き受けているという恐ろしさ。
コストカットを進めるために、自らも報酬をもらわないという決断は並の人ではできません。
そんな、経営の神様とも言える稲盛氏が会計についてまとめた本が
「稲盛和夫の実学」
になります。
物事の本質を追求した会計処理
会計基準の細い規則についてまとめられた本ではありません。
稲盛氏の会計の捉え方は、
会計上の常識にとらわれず、何が本質なのかを意識
することにあります。
例えば、固定資産の耐用年数にもこだわりが現れています。
一般に固定資産の耐用年数は税務上定められた年数を使用します。
本来、会計上は、資産ごとに何年使用するかを見積もり適用する必要があります。
しかし、税務上は各社がバラバラの耐用年数を採用することは認めていません。
会計と税務の耐用年数が異なると税務調整が必要になり、非常に煩雑です。
また、有税処理になると税務的にもデメリットがあるので一般的には税務上の耐用年数をそのまま会計上の耐用年数とします。
しかし、稲盛氏は法廷耐用年数を真っ向から否定されています。
資産の耐用年数が5年であれば、5年で全て費用化しないと経営判断を誤ると断言されています。
節税のために耐用年数を捻じ曲げるのは、事実ではないと。
おそらくこんな面倒なことを会計士から、社長に申し上げると契約を切られるでしょう。
しかし、稲盛氏の主張は至極まっとうなものであります。
そもそも、会計も暗黙の了解で税務上の耐用年数を認めていますが、本来は個別に耐用年数を定めるべきです。
実際に使用する年数で償却しないから、減価償却費が歪められ会計上の利益も歪められることになります。
経理処理で、会計利益を操作することになりますから財務諸表が実態を示さなくなります。
減価償却費は、みんな税務上の耐用年数で実施しているという常識にとらわれず、何が本質かを捉えて処理される稲盛氏の判断は素晴らしいと思います。
一方、経理は大変だろうなとも思います。
会計用と税務用、二つの固定資産台帳が必要になりますから毎期非常に面倒な決算手続きをされていると思います。
一対一で処理をする
不正会計の手口として、製品が出荷されていないにもかかわらず出荷伝票を切り売上を計上する手法がある。
取引先と共謀し、出荷伝票と納品伝票を仕上げ翌期に返品処理をすれば製品を動かさなくとも売上が計上されることになる。
上記処理は、架空計上であり当然認められる売上ではありません。
このような不正を防ぐために稲盛氏は、
一対一の原則を徹底しています。
つまり、モノが動く時には同時に出荷伝票が切られなければならない。
どちらかが先行することはなく、同時に起こるものとされています。
入金もどの製品売上に対する入金であるかを明確にする必要があるとされています。
正直、当たり前です。
しかし、この当たり前をトップ自ら徹底すべきと宣言されているのが素晴らしいと思います。
また、この原則は当たり前で上場会社であればどこも徹底されているはずです。
しかし、イレギュラーな状況になった時例外処理を認めることもあると思います。
例えば、顧客都合で深夜に緊急出荷をした場合など、先に出荷だけして翌日に売上伝票を計上することもあると思います。
しかし、稲盛氏はそのような例外は一切認めないと言われています。
例外を作ると、際限がなくなり不正が起きやすくなると考えていらっしゃいます。
これも激しく同意します。
イレギュラーな事態の時こそ、原理原則を徹底すべきだと思います。
バックオフィスも完璧主義でなければならない
みなさんは買った商品に不備があると製造会社に電話して返品交換を申し出ますよね?
それは当然不備がない完璧な製品を求めているからですね。
そして交換に応じる企業も完璧な製品を供給する義務を負っているから交換に応じるわけです。
では、ExcelやPowerPointなどで資料を作成した時にミスを指摘されたらどうしますか?
間違った箇所のみdeleteキーを押して、修正しますよね?
稲盛氏はこの姿勢が気に食わないと述べています。
何がというと、一部分だけ修正してすぐに提出しておしまいになることがいけないと。
製品の場合は、廃棄して一から作り直す必要がありますから製造現場は一切のミスも許されない環境で仕事している。
それに対して経理などの事務職は、簡単に修正ができるため完璧主義で仕事をしていない。
緊張感が足りないというわけです。
自分で完璧だと思うまでチェックをしてから提出すべきであり、社長にミスを指摘されるのは欠陥のある製品を市場に出しているのと同じというわけです。
正直、私は身をつまされる思いでした。
資料を作って細かい部分は確認せずに提出することが多いからです。
魂がこもっていない成果物を作り上げている自覚があるので、今後の仕事に対する姿勢を改めたいと思います。
社員のためであるダブルチェック
みなさんの職場でもダブルチェックはよく行われていると思います。
ダブルチェックとは、誰が実施した内容を他の人がチェックすることです。
契約や入出金など事業場のリスクがある活動は単独ではなく、上長や他部門の確認が入ることが一般的だと思います。
しかし、ダブルチェックはミスをなくすためには有用ですが面倒ですよね。
特に上場会社は、内部統制監査を受けるため承認印をがないといけなかったりと手間が増えていると感じる人も多いと思います。
稲盛氏は、ダブルチェックはミスをなくすためのテクニックではなく、
会社も従業員も守るために必要な手続きである
と述べております。
ダブルチェックが従業員を守るとはどういうことでしょうか。
稲盛氏は経営で一番大事なのは、人の心であると説いています。
人の心を大事にして、従業員を信頼しているのであればダブルチェックなど不要に思いますよね?
しかし、稲盛氏は人の心はそこまで強くないと考えています。
1人で会社の金銭管理を長年担当していると、つい魔がさすことがある。
魔がさすのは、人としてしょうがないと考えています。
魔がさした時に1人だとそのまま不正をしてしまいます。
しかし、ダブルチェックの体制があれば魔がさした時に不正を実行することはできません。
つまり、魔がさしてしまった人にそのまま道を踏み外さないようにするための仕組み作りということです。
私はこれを読んだ時に衝撃を受けました。
不正をしてしまう人を守るためにダブルチェックをするという発想はなかったからです。
不正をしないための仕組み作り、すなわち会社を守るための制度と理解していましたが、従業員を守るための制度であるという視点はありませんでした。
不正をしてしまった人は、会社を退社することになりその後の就職も難しくなります。
不正をした人も最初から不正をするような悪の心を持っていたわけではありません。
人は状況によっては誰でも不正をしてしまう可能性がある生き物である。
強く心を持てという精神論ではなく、マネジメントで人の道を踏み外さないようにすべきという経営者の考え方は素晴らしいと思います。
管理が面倒と思うマネジメント層の方々は、ぜひ一読いただきたい本です。
まとめ
稲盛氏は、経営の神様と呼ばれるような方です。
その方が、営業だけでなく会計及び管理の重要性を説いているのはありがたいですね。
私も会計士として、完璧な仕事を全うすべく日々精進したいと思います。
稲盛和夫の実学―経営と会計
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